惣菜パックを持ち上げるとき、強くつかめば容器が変形し、弱すぎれば落としてしまうかもしれません。たとえば小売のバックヤードで、ロボットにパックの移し替えを任せるなら、触れた後に力を加減できることが役立ちそうです。見た目だけではわかりにくい、つぶれやすさや滑りやすさに対応するためです。

1Xは2026年7月9日、NEO向けに25自由度の手を発表しました。同社によると、触覚センサーで接触の位置や力、滑りを捉え、物から受ける力を情報として返す構成を備えています。細かな物の扱いと量産計画についても説明しています。

この構成から考えられる仕事の変化は、触れた情報を使い、物の状態に応じて持ち方を調整することです。ただし、惣菜パックを扱う例は用途の仮説であり、導入実績ではありません。発表を、人の手が担うすべての作業を置き換えられるという保証として読むこともできません。

物に触れる:指先で対象に接触する。感覚を受け取る:接触や滑りを手がかりに。力を調整する:持ち方の制御につなげる。仕組みの整理。実物の性能を測った図ではない

接触の情報を受け取り、手の動きや力へつなげる

仕組みを、入力から出力まで順に見てみます。入力になるのは、物に触れた位置、そのときの力、滑りに関する情報です。1Xは、これらを捉えるために触覚センサーを使うと説明しています。手をどこへ動かすかに加えて、触れた相手からどのような力を受けているかを知る手がかりになります。

手を動かす内部の構成には、腱に相当する伝達機構と、力を制御する仕組みがあります。「腱に相当する」とは、人の指を動かす構造になぞらえた説明です。ここで扱っているのは動きを伝える機械の構成であり、人と同じ感覚を持つという意味ではありません。

出力に当たるのは、物に働きかける手の動きや力です。接触の情報を力の調整につなげられれば、滑りに応じて保持の仕方を変える用途が考えられます。一方、どの情報を使って、どれほどの速さで動作を変えるかという制御の詳細は、今回の説明だけでは判断できません。滑りを検知できても、落下を防げるかは作業ごとに確かめる必要があります。

あらかじめ決めた動作を繰り返す使い方と比べると、接触後の状況を判断する手がかりが増える、と捉えられます。これは構成から考えられる意味です。従来製品より高い性能が実証された、という比較結果ではありません。

25自由度が示すのは、手の動き方

自由度とは、機構が動ける方向や動き方の数を表す言葉です。1Xが示す25自由度の内訳は、指と手のひらが22自由度、手首が3自由度です。物に接する部分だけでなく、手全体の向きを変える手首も含まれています。

仕事に結びつけるなら、物の形に合わせて接触の仕方を変える余地がある、と考えられます。ただし、自由度の数は、できる仕事の種類や作業の成功率を表す数値ではありません。動かせる部分を、接触の情報に応じて適切に制御できるかが、作業の成否に関わると考えられます。

速さや器用さを評価するには、何を、どの条件で、何回扱ったかをそろえて見る必要があります。今回確認できた発表内容からは、そうした条件を伴う成功率や作業時間、運用費用を評価できません。25という数字だけで、他の手より優れている、人より速く働くとは判断できないのです。

惣菜パックなら、持ち上げた後の商品状態を見る

小売で試すなら、入力となる対象物は、実際に扱いたい容器と中身です。たとえば容器の種類や中身の偏りが異なるパックを用意し、持ち上げて別の場所へ置く作業を試すことが考えられます。触れた情報に応じて力を調整できれば、品目ごとに持ち方を決める作業の一部を、接触後の制御に任せられる可能性があります。

担当者が判断するのは、移し替えた後も売り場へ出せる状態かどうかです。落とさずに運べても、容器が変形したり、中身が偏ったりすれば、仕事として成功とは言い切れません。どの程度の変化を許容し、どの状態なら人が扱い直すかを決めておく必要があるでしょう。

ここでの触覚の価値は、「つかめた」という結果だけでは捉えきれません。必要な状態を保って置けるかまで見ると、現場で任せられる作業の範囲を判断しやすくなります。

物流で柔らかい袋を扱う場合は、形が一定でない荷物をどう保持するかが課題になります。たとえば材質や内容物が異なる袋を持ち上げ、所定の場所へ置く試験が考えられます。滑りの情報は保持の仕方を判断する助けになり得ますが、つかむ力を強めれば常に解決するとは限りません。袋の破損や中身への影響も含めて確かめたいところです。

これらは、いずれも実際の導入事例ではありません。センサーがあることを、現場で何を任せられるかという問いに置き換えるための例です。

比較する前に、作業の成功条件をそろえる

導入を検討するなら、まず対象物と動作を絞り、成功の条件を決めるとよいでしょう。惣菜パックなら、落下せず、容器と中身を許容範囲に保って置けること。物流の袋なら、袋や中身を傷めず、決めた場所まで運べること、といった条件が考えられます。

その条件を満たした割合は高いほど望ましく、破損や人によるやり直しの割合は低いほど望ましい指標になります。現在の人手や既存設備と比較する際も、同じ対象物と作業範囲で測る必要があります。これらは導入試験の提案であり、1Xが公表した測定結果ではありません。

量産計画への言及だけでは、それぞれの現場でいつ、どの条件で試せるかは判断できません。試験の機会や提供条件、費用を確認し、自社の対象物で必要な結果を出せるかを確かめることになります。

1Xが説明する、物から受ける力を手へ返す構成は、触れた後の力加減を考える手がかりになります。仕事を任せる判断では、持ち上げる瞬間の動きに加えて、置き終えた品物の状態と、人が扱い直す必要があったかを見たいところです。